今から8年ほど前、急に「朝ミーティング」なるものに参加しなければならなくなった。ここからの数年間は、私の社会人人生の中でもお手本のようなパワハラを受けた時期だ。

◇地獄の朝ミーティングの始まり
朝8時過ぎから約20分ほどのミーティングで、参加人数は私を含め数人程度。話す内容は「昨日の業務内容の報告」「今日のスケジュール」と、大した中身ではない。そもそも、なぜこんな意味も生産性もないミーティングを行っているかというと、昔からの「伝統」らしい。 しかし、この伝統こそが地獄の時間の始まりだった。
朝ミーティングはある役員が仕切っており、当時、彼は会社のナンバー2だった。次世代の経営者として期待されていたが、こいつがとんでもないパワハラの総合商社のような奴だった。

◇「彼」という存在:現場を知らない「おぼっちゃまさん」役員
その彼というのは、地元で大変権力のある有力者の息子で、とんでもない「おぼっちゃまさん」だった。そういった経緯もあり、勝手口からこっそり中途入社したが、入社後すぐにそれなりの役職を与えられ、数年で役員になってしまった。当然、業務の実務経験もなければお客様と接する現場にも携わっていなかったため、現場の実態を全くわかっていなかったのだ。
その上、プライドだけはベジータよりも高く、自分が言ったことは絶対。明らかに間違っていても非は認めず、常に他人のせい。そして何より、瞬間沸騰湯沸かし器のごとくキレる。

◇朝ミーティングの恐怖:ボールペンが叩き出す地獄の序曲
ある朝のミーティング。すべては彼の「ご機嫌」に左右される。まぁ、大体はご機嫌斜めだが。ミーティングが行われる会議室に入るなり足を組み、右手に持ったボールペンでリズミカルに机を叩く。何かアクションがあるのかとみんなが身構えていたのだが、彼は一言「喋れ」と言った。
ミーティングが始まった。 前述のように昨日の業務内容の報告、今日のスケジュールを話すのだが、その際もずっと「トンッ、トンッ、トンッ」とリズミカルに机をペンで叩き続けている。まるでスズメバチが顎を噛み合わせて威嚇しているようだった。
一人が話し終わると、沈黙が続く。彼が「次」という言葉を言わなければ、次にバトンは渡せない。ペンで叩く音は続く。緊張が走る。 「次」
自分の番が終わっても安心はできない。誰かの報告により飛び火する可能性はまだ十分に有り得るのだ。一人、また一人話すのだが、簡単には終わらない。
先輩社員がひとしきり話終えた後、彼が短く「で?」と投げかける。毎日、誰かひとりはターゲットになってしまう。報告してほしいことや、触れてほしい話題が出なかった時、決まって彼はこう言う。 「で?」と言われても、先輩社員は何を話せばいいか全くわからない。もちろん、我々もわからない。しどろもどろになり沈黙が続くと、また一言「報告」と彼はいう。 どうやら何か報告してほしそうだ。
そこからはもう集中砲火だ。何を話せばいいか黙っていると「黙るなッ!」と大声で怒鳴られ、いくつか報告が必要そうなことを話しても、違えばまた怒鳴られる。最後はボールペンを投げられるか、クリアファイルを叩きつけられるかで怒りは収まる。そして決め台詞「お前を精神的に追い込んでやるからな」。完璧だ。
これが毎日行われる。当然、私も被害にあった。今でこそ全て録音しておけばよかったと思うが、その時は全くそんなことを考えることすらできないほど、恐怖とプレッシャーで押しつぶされそうになっていた。

◇午前中だけの暴君:コバンザメくんとハエたたき
彼は基本的に午前中しか会社にいない。報告書やら何やら書類を確認し、ハンコを押し、デスクに張り付いている。デスクの隣には彼お気に入りのコバンザメくんが、お行儀よく立っている。ハンコを押す書類を丁寧にデスクに置き、押すべきハンコを彼に渡す。たまに渡すハンコを間違えてしまいハンコを投げつけられたり、フロア中の人前で頻繁に怒鳴られたりしていたが、それでも彼はコバンザメを辞めなかった。不思議なことに。
夏になると、よくハエたたきでコバンザメくんをはじめ、報告に来た人やデスクが近い部下を叩いていた。ハエたたきで叩かれると、とても痛いということを初めて知った。
お昼前くらいになると彼は颯爽と会社を出ていき、基本的には会社に戻らない。会社にいないからといって気を抜いてはいけない。思い出したようにメールでの攻撃が始まるのだ。前述のように「報告」や「いつ?」だけのメールが来る。答えられなかったり、彼の思う答えを用意できなかった場合、翌日の朝ミーティングで怒声とボールペンが飛んでくる。

◇パワハラという名の免罪符:彼の本性と私の無力感
その状況でよく会社を辞めなかったなと今になって思う。この頃は会社を辞めることすら考えられないほど、追い詰められていた気がする。ただ、本当に辛かった。
上司は辞めてしまった。というか、突然会社に来なくなり、結果的に退職となった。
以前、彼に誘われて飲みに行ったことがある。その時に「俺がなぜ朝ミーティングでキレるかわかるか?」と質問された。私は「わかりません」と答えると、彼は「正解はオレのストレス解消のため~」と上機嫌に笑ったのだ。
まぁ、そうだろうなと。仕事を円滑に進めたり、より良い結果を求めるための話し合いでは、あんなことにはならないはずだ。
以前、私の祖父が亡くなり、葬儀のために会社を休んだときも「じいさん死んだくらいで会社休むなよ~」と冗談っぽく話しかけてきた。言って良いラインとそうでないラインが完全にわからないのだろう。腹が立つよりも本当にびっくりしたと同時に、呆れてしまった。コイツに何を言っても無駄なんだろうなと本気で思った。
持って生まれた性格か、育った環境か、はたまた素晴らしいお家柄のせいなのかは不明だが、現実にこういった人間は確かに存在する。
パワーハラスメントは、基本的に立場が上の人間がその立場を利用して、下の人間に対し業務範囲を超えた精神的・肉体的な苦痛を与える行為である。なぜそんなどうしようもない奴らが上の立場になってしまうのだろうか。上司の上司は何を見て、何を聞いて、どんな判断基準で評価しているのだろうか。
いつも思うが、会社内では全てパワーハラスメントという括りに留まっているが、これを会社と全く関係ない他人に行った場合、恫喝や脅迫、名誉毀損と捉えられるケースが多数出てくるのではないだろうか。なぜ会社内ではそれらが「パワハラ」の一言程度で収まってしまうのか。犯罪として取り締まってほしいくらいだ。

◇第二の「彼」の出現:繰り返される負の連鎖
結論から言うと、彼は会社を辞めた。上述では少しマイルドに書いているが、もうみんな限界だったのだ。割愛するが、当社の社長と関係の深い会社のお偉いさんが、今までの経緯を社長へ報告してくれたことをきっかけに、彼は関連会社へ左遷され、程なくして辞めた。
その後、彼は他の会社に役員待遇で迎えられていた。世の中、権力のある人間や金を持っている人間は、どこまでいっても守られるのだろう。上級国民がこんな身近にいるとは思わなかった。
「彼」のような人間がなぜ要職に就き、その行為が黙認されるのか。この体験は、私に会社という組織、そして社会の矛盾を突きつけた。
個人的なストレス解消のために他人を攻撃する行為は、決して許されるものではない。会社という閉鎖的な空間で「パワハラ」と分類される行為が、一歩外に出れば「犯罪」となり得る。
しかし、残念ながら第二の「彼」がまた出現してしまったのだ。
次回は、その第二の「彼」から受けたパワハラを胸に、警察へ相談に行った時の詳細な経緯と、そこで見えてきた現実についてお話ししようと思う。
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