行動を起こすには、とても勇気がいるものだ。労働基準監督署に行くと考えたらなおさらである。悪いことをしているわけでもないのに、自分が困っているのに、助けてほしいのに、どこか若干の後ろめたさがあるのはなぜだろうか。
当然、特定されるリスクもあるし、その場合は報復してくる可能性だって考えられる。
しかし、行動しないことには何も始まらない。何もしないと後悔するだろうと思い、私は強い決意を持ち、行動を起こした。

◇労働基準監督署への事前準備
まずはじめに、相談内容の明確化と、提出資料の事前準備を行った。いきなり現地へ行き相談するよりも、要点をまとめ、客観的な証拠を提示しながら話したほうが効率が良いと考えたためである。
相談内容は以下の3点に絞った。
1. 年間5日間の有給休暇未取得問題
2019年4月1日以降、企業は年次有給休暇が10日以上付与される従業員に対して、年間で5日の有給休暇を取得させることが義務となっている。当社は全く有給取得の推進をしておらず、それどころか、「罰金払ってでもいいから働かせる」と管理課の部長は豪語していた。本来は有給取得の推進や法令遵守を徹底させる立場の人間がこれでは、どうしようもない。幸運なことに、社員の有給休暇取得状況の一覧表があったため、それを数年分証拠として確保した。
2. 残業代の不当カット問題
当社は毎月、残業の上限が決められている。その上限以上残業した場合、残業代はカットされる。例えば、上限残業時間が月40時間だとして、45時間実残業があれば5時間分の残業代は支給されないことになる。それが何年も続いているのだ。こちらも残念ながら、管理課の部長の方針で決められていた。有給と同様に、上限残業時間とカット対象リストがあったので、数年分のリストを確保した。
3.パワーハラスメント
警察にも相談したが、こちらでも今まで受けたパワハラについて改めて相談した。簡単に説明すると、内容は恫喝や威圧・威嚇、執拗な詰問などである。以前録音した、パワハラを認めた録音データを証拠として確保した。

◇労働基準監督署への電話予約と訪問
相談の際、いきなり行くのもおかしいと考え、とりあえず最寄りの労働基準監督署をネットで調べて、出てきた電話番号に電話をかけた。
電話に出たのは女性職員で、「労働環境に関する相談がしたい」旨を伝えた。そこから担当者につないでもらい、具体的な相談内容と、労働基準監督署へ伺う日時の打ち合わせを行った。
その中で一つだけお願いしたことがあり、それは個室を用意してもらうことであった。警察との一件もあり、相談環境の重要性は理解していたためである。
案の定、労働基準監督署では窓口にパーティションが区切られた簡易ブースしかなく、こちらから提案しないと個室での受付は行っていなかった。実際に通されたのはごく小さな会議室であった。

◇労働基準監督署での相談:証拠の壁と対応
到着すると、建物に入るまで同僚や上司に見られていないか、急に心配になった。もちろん、行くのは初めてであり、変な緊張感があったが、思い切ってドアをくぐった。
建物に入って少し歩くと、受付のようなカウンターが見えてきた。職員は皆、パソコンとにらめっこしていて、キーボードを叩く音と書類をめくる音が聞こえる。
左手側には簡易ブースがあり、2名が相談をしていた。やはりこの環境では相談しづらいと感じた。受付で予約したものだと名乗り、担当者が来るまで座って待った。程なくして担当の男性が個室まで案内してくれた。
労働基準監督署では、USBなどの記録メディアは証拠品として受け付けていなかった。提出できたのは紙ベースの資料か、こちらのデバイスを使って記録メディア内の情報を目視で確認してもらう形である。セキュリティの観点から、外部記録メディアは労働基準監督署のパソコンで利用できないためだ。
改めて、相談した内容は以下の通りである。
1. 年間5日間の有給休暇未取得問題
こちらに関しては確固たる証拠があり、具体的に誰がいつ有給休暇を取得したかどうかがひと目でわかったため、会社へヒアリングの上、有給休暇取得の推進を適切に指導してくれるとのことだった。
2.残業代の不当カット問題
こちらも確固たる証拠があり、労働基準法に違反していることを確認いただいた。会社へは改善を求めるよう厳しく指導すると約束いただいた。
3.パワーハラスメント
こちらについては、やはり警察と同様で、具体的に「誰から、いつ、どこで、どんな内容か」が明確でないと、違法性があるかは判断できないとの回答だった。客観的な証拠が無い場合、あくまで「そういう通報があった」程度しか話せないとのことで、客観的な証拠がどれほど重要かということを痛感させられた。

◇会社への指導と変化:行動がもたらす現実
労働基準監督署へ通報してから2ヶ月も経たないうちに、会社へ指導が入った。内容は上記の3つだ。そこからの会社の対応は一変した。残業の上限は撤廃され、有給休暇を義務づける方針が出された。
結果的に、会社は変わった。
正確には、変わらざるを得なくなった。
勇気を出して行動を起こした結果、成果はどうであれ変化は起こるということが実感できた。もちろん、ただ運が良かっただけかもしれない。
ただし、これはただの通過点であり、まだまだホワイト化できる余地がある。今後も活動を継続していくつもりだ。
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